本研究は、リスクコミュニケーション手法を取り入れ、リスク情報について建築主と情報を共有した建築物の構造設計を可能にするべく、専門家と建築主双方を支援するための提案を研究目標としている。具体的には構造設計におけるリスクに関する対話の現状や市民の意識を把握し、課題とニーズを明らかにした上で、対話のための手法構築と設計者・建築主用支援ツールを考案する。当該年度には、次の調査・研究を実施した。 1.リスクコミュニケーションの市民ニーズの把握と設計事例収集・設計者の意見聴取構造設計ではリスクコミュニケーションの対話内容と説明方法はまだ十分に行われていない。建築主と設計者がどのように対話を進めているか、現状把握を行いながら、建築主と設計者の職能・意見の違いを考察し、コミュニケーションの発展に関する概念を整理した。構造設計ではリスクコミュニケーションは本格的には導入されておらず、構造に関する説明性の向上をはかる時期であることが分かった。手法を導入するための方策を専門家間で検討し、設計性能の説明ツールの骨子を考案した。実務設計事例から、どのような対話例があるのか、設計者はどのように考えるのか、コミュニケーションに関する調査を行い、課題を検討した。実務者および研究者、建築系学生に対する意見を収集し、課題の分析を行った。 2.リスクコミュニケーションに関する市民の意識調査 リスクコミュニケーションの当事者であり、意思決定の最終決定権者である市民がどのように要望しているか意識調査から把握した。分析の結果、安心と信頼の醸成と関連する要因、建築主の知識と要望を明らかにした。研究成果を学会・学術雑誌等で発表した。
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