研究概要 |
本年度は1)3次元堆積盆地構造における長周期微動の数値シミュレーションモデルの構築と2)平行成層地盤の仮定に基づいて実施されてきた微動の分散曲線と水平と上下のスペクトル比(H/Vスペクトル)を用いた地下構造同定手法の適用限界を実観測に基づいて調べた。前者については,大阪堆積盆地モデルを対象にクラスター型計算機を用いた3次元有限差分法による微動波形を計算しH/Vスペクトルを求めた。H/Vスペクトルは福島区で直交する東西・南北の2つの測線上で求めた。その結果,次のことが確認できた。卓越周波数において,大阪湾西方が最も低くなり上町断層西側の平野部では0.15〜0.2Hzに存在すること,平野周縁部の山地境界域や上町断層付近において,それらが急激に高周波数(0.25〜0.35Hz)へシフトする。さらに,H/Vスペクトルの卓越周波数と地下構造の急変領域が一致しており,その領域のH/Vスペクトルにおいてブロードなピークを示す。次に後者については,大阪堆積盆地南端部に位置する泉南地域において地震基盤まで達したボーリング地点に対して微動の位相速度の分散曲線とH/Vスペクトルそれぞれから求めた地下構造の比較を行った。その結果,基盤面傾斜が緩やかな臨海部においてボーリングによる基盤面深度と微動による2つの探査結果が整合した。一方,基盤面傾斜が急な丘陵部においてボーリングによる基盤面深度とH/Vスペクトルによる結果は整合したが,SPAC法による位相速度が小さめに評価され,その結果分散曲線による推定基盤面深度が実際より3倍程度深く評価されることが分かった。上記1),2)は既往の研究では行われておらず,不規則地下構造における微動の適用性について貴重な情報を有していると思われる。来年度は3次元と1次元モデルによるH/Vスペクトルの卓越周波数とスペクトル形状および位相速度の比較から平行成層モデルの仮定に基づく地下構造推定の適用限界について,理論的に調べる予定である。
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