グラフ理論はノードの位相的な関係性に基づく数学理論であるが、これを現実の事象に適用しようとすると、極度な抽象化に伴い欠落している情報が多すぎて、実効的な成果を得られない場合が多い。本研究は、グラフのノードやエッジ、それらの隣接関係に属性を付与することにより、より、現実に即した状況を想定したネットワークベースのシミュレーションモデルを構築し、それを都市・建築の事象に適用してその有効性を検証しようというものである。 グラフの各要素やその関係性がもつ属性は"重み"として記述されるが、本モデルで重要なのは次の2点である。ひとつは、その重みは静的に固定された性状のものではなく、時間と共に動的に変化するものであるという点で、いまひとつは、重みづけられた要素は、他の要素の重みに対しても影響を及ぼし、更なる変化の誘因になるという点である。こうした状況を記述するためには、有向グラフを基本とし、その属性が時系列上で変化するという仮定から出発するが、ある変化が周辺にも影響を与える状況を考慮すると、その変化は単なる多変量関数の関係性になるのではなく、複雑系を内包したものになっていなければならない。 H20年度までに、マルチエージェント・モデルを活用したモノや人の流動現象を再現するプログラムに、前述の複雑系の性質を有する重みを組み込む手法を考案し、都市・建築空間のモノや人の流れを統合的にシミュレートするモデルを開発した。 本年度は、開発したモデルを予備的検証データに適用して、モデルの有効性や限界性を確かめるとともに、現象とモデルとの間で緊密なフィードバックを行い、プログラムのモディファイを進めた。
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