平成21年度においては、領域型ミュージアムの中核をなす各分野の要素的研究を行い、具体的なシステムデザインの検討を行った。第一に総合システム研究においては、領域型ミュージアムのシステムの構成要素として、「場所」、「コンテンツ」(モノや情報)、「ユーザ」を想定し、場所とコンテンツのネットワークをユーザが生成・共有するシステムの検討に入った。第二に建築空間系研究においては、博物館/美術館のような「建築タイプ」ではなく、展示機能に呼応したより小さな「空間タイプ」の検討を行った。第三に都市領域系研究においては、領域型ミュージアムの潜在的な「可能空間」(ミュージアムに使える空間)の抽出研究を行った。第四に情報システム系研究においては、位置情報の取得とコンテンツ情報の登録を基本とする情報システムの検討を行った。 これら4つの研究分野を総合するものとして、領域型ミュージアムを実現するためのナビゲーション技術の試作開発を行った。平成20年度に実施した「地図上の位置情報管理の開発調査」をベースとして、実証実験を行うためのアプリケーションの試作開発を行った。具体的には、i-Compassという名称のコンパス型のナビゲーション・ツールをiPhoneアプリとして開発した。i-Compassは、ユーザの目的地や関心地の方向を矢印で指示する「自分専用のコンパス」である。GPS、WiFi、基地局情報によって現在地から目的地への方向と距離を取得し、ユーザはその表示をもとに目的地に向けて移動する。ユーザはGoogle Maps上で複数の目的地を指定し、それらをまとめて一つの「スペース」として保存できる。「スペース」は複数の場所のセットであり、領域型ミュージアムの空間概念に対応する。さまざまなスペースをユーザ自身が設定し、他のユーザとスペースの情報を共有することによって都市領域を探索することがi-Compassの目標である。本年度はi-Compassの基本形の試作開発までを行った。
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