平成23年度においては、親子・子どもの生活空間論については、学童保育の「生活の場」の概念を深めることを理念的な課題として設定し、詳細な観察調査を実施するとともに、生活空間構成における一定の原則を見出した。すなわち、特定の行為や活動を保証するとともに、その周囲の余地や隙間的な空間が行為の選択や移動、自律性と個人の差異を保証するために有効な機能を生かしていることについて仮説を改めて構築し、部分的な検証を行うことができた。高齢者についても、デイサービスの空間において民家の利用など沖縄の空間的資産を活用している事例における利用者の行為のゆるやかな重なりとつながりに関わる観察成果を得た。 以上の知見をもとに、とくに高密度事例を中心とした学童保育の空間構成の特質については、「生活の場」として行為領域の重なりから生じる問題点があることと、余地やすきま空間を実質的に確保しようとする営みがあることを中心に論文として公表することができた。 同様の知見は親子や高齢者の居場所についても一定の分析結果を得ており、今後、論理的整理をもとに公開していく予定である。 本研究で得られた一連の成果は、沖縄の多様な共有的空間資源が有するゆるやかで開かれた空間的特性が、親子・高齢者の生活空間として優れた特性を有することを示すものである。すなわち、交流、学習、一斉の活動などの所与の機能を満たすことをもととした機能主義的空間性能の評価だけではなく、想定された行為からはみだす人や時間、行為の自由な選択、集団への距離の取り方の柔軟性など、自由で自律的な時間を過ごす際に求められる空間特性の重要性についての認識を明確にすることができた。
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