本研究は、児童養護施設を対象にして、環境の果たす役割を見出し、建築計画論に結びつける知見を見出すことを目的とする。小舎制をとる児童養護施設を対象とし、子供の発達という視点から、施設の物理的・社会的・規範的環境と児童=人間とのトランザクショナルな関係を明らかにし、人間-環境システムの役割や意義を捉え、環境のあり方に対する知見を導出することを目指している。 全児童養護施設を対象として、小舎制の実態と課題を探るアンケート調査を遂行し、集計・分析作業を行った。現段階において小舎制の施設は2割程度であり、新設や建替等によってその数は増加しているが、ほぼ半数の施設は大舎制、2割は大舎と小舎またはグループホームとの混合である。個室化はさほど進んでいるとは言えないが、それは養育上の理由というよりも、施設の財政上・経営上の理由によるものが多く、とくに近年精神的課題を抱えた児童の増加に対応しきれないという制度上の問題点が浮き彫りにされた。 また、複数箇所の児童養護施設の現場に赴き、施設側に現状や課題についてのヒアリングを行った上で、2箇所の小舎型児童養護施設を対象に、入居児童の生活調査を行った。いずれも家庭的な養育環境を目指して数年前に建て替えられた個室・小規模ユニット型の施設であり、各ユニットに幅広い年齢の児童を配置する縦割り構成であったが、その児童の生活実態には大きな差が見出された。とくにリビング空間における児童同士のコミュニケーシヨンの差は、両施設における養育目標の違いが反映されたものとなり、その結果として児童の生活に大きな影響を及ぼしていることが把握された。児童の社会性と自立性をどのように育んでいくか、それを可能にするだけの生活環境をどのように担保しうるのか、施設にとって重要な課題を導出しつつある。
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