本研究は、高層建築物において災害弱者を含む実効性のある避難計画を検討するものである。平成20年度は、研究計画に合わせて以下の2点を実施した。 1)高層建築物の避難計画および防災訓練実態調査 実在の東京都内の25階建て事務所高層建築物において、避難訓練状況の実態調査を行った。訓練への参加人数は約1300人である。全館一斉避難の状況を把握、分析するために20台のビデオカメラを建築物内の避難階段の踊場天井部分に設置し、階段室内および階から流入する避難者の流動状況を計測した。この建物では、火災が発生した階およびその周辺の危険な場所を優先的に避難させる順次避難の方式が計画されていた。この計画に従い、順序よく適切に避難を行うためには、非常放送のメッセージ提示のタイミングとその内容の適切さが重要である事が明らかになった。また、過去に例を見ない大規模な全館避難訓練調査から、一般的に詳細な分析がなされていない全館一斉避難の状況を、各階毎の流動量の時系列変化としてとらえることが出来た。 2)自助、共助、公助についての質問紙調査 高層建築物の利用者となりうる人々対して、高層建築物避難に関する質問紙調査(有効回答94名)を行った。その結果として、エレベータを利用した避難を想定した場合の避難者の優先順位評価、避難誘導灯と避難口誘導灯の差異の理解、避難に利用する施設、非常ベルが鳴った場合の初期対応行動、火災発生階と自分の階の関係から見た避難行動の関係を調査、分析しその傾向を明らかにした。その中で着目すべき点として、災害弱者や危険度の高い階の人を優先的に避難させる為に、自分が待機可能であると考える時間の平均値データが得られた。研究内容を日本建築学会、日本火災学会において、大会梗概集に投稿し、内容を発表した。また、日本建築学会総合論文誌に本研究の必要性と総論を整理し、掲載された。
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