研究概要 |
過年度の研究で制作した街区模型を用い,法務局資料により土地所有権の移動の履歴の再現を試みた。その結果,街区の空間変容の過程に質的な転換点(クリティカリティ)となる時期があることが明らかとなった.主として高層建築物の開発が街区の奥まで深く食い込む形で進行していることが街区内の開放的な空間を分断し,狭めてきている実態が把握された.この開放空間を今回の研究では協調空間と定義づけた.その理由は,開放空間が京町家の中庭の機能を支え,居住環境を良好に維持してきたためにひとびとは互いに近隣の調和を意識できる存在として認識してきたためであるとした.クリティカリティの認識は,協調空間の崩壊の危機へとつながっているために,歴史的街区の整備は協調空間の保全,再生を基本的な課題として確認すべき段階へと前進した点が今年度の成果であると考えている.従来の研究ではこの点を指摘する例は見受けられないので,今年度は一定の到達を見たと考えている. 協調空間の保全,再生のデザインのあり方の検討を行った.その結果,デザインの指針は街区一様ではなく,共通の整備課題を抱えるいくつかのエリアに類型化できることが明らかになった.これを6種類のデザイン・ゾーニングとして提案した.その1類型である新共同住宅創造型について,今回は4層の中層タイプと2層のタウンハウスの組み合わせの住棟構成を提案した.この提案は,住棟自体が協調空間の拡張に資するとともに,各戸が中庭をもつ形態をとっている. 中庭と協調空間の結びつきの検討では,文献で中東アジア地域のコートヤード型住宅との比較検討を進めた.この比較検討に関する我が国の研究事例はほとんどなく,今回の成果もオリジナルなものになっていると考えられる.
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