研究概要 |
本研究は,大都市の市街地に分布している寺社境内に焦点を当て,その分布特性と敷地形状や建物配置の形態的特性を抽出し,民間空地としての境内を今後の緑地・防災計画に資するための基礎的知見を得ることを目的としている。前年度までは,東京23区・大阪市・京都市・名古屋市を対象として境内データの整備と分析を行ってきたが,本年度はこれら4都市に加えて,新たに神戸市における神社境内の敷地・建物・緑地ポリゴンを作成し,5都市間での比較分析を行った。その結果,以下に示すような知見が得られた。 (1)数密度を比較すると,いずれの都市においても神社より寺院の方が高い。また,面積比は各都市間でのばらつきはあるが,寺社境内の面積を合計すると,都市面積の概ね1%程度である。 (2)寺社境内の分布パターン(凝集型・ランダム型・均等型)を最近隣指標によって判定すると,すべての都市において,寺院よりも神社のほうがランダム型に近い分布パターンを示す。 (3)境内の敷地形状の複雑性を把握するために,面積と周長の二乗比で表される形態係数を用いると,5都市間および寺院・神社間では大きな差異はみられない。 (4)接道率(敷地の周長のうち街路に接している長さの割合)を比較すると,その平均値は,すべての都市において寺院境内よりも神社境内のほうが高く,街路に対して開放的である。 (5)境内がオープンスペースとして機能しうる有効な空地をどれだけ備えているかを把握するために,神戸市のデータを対象に,半径rの円が掃過可能な面積を計量してみると,それぞれの半径における有効空地の面積は,寺院境内よりも神社境内のほうが大きい値を示す。また,緑被率も神社境内のほうが高い傾向にある。 以上のように,寺院と神社では都市内分布と境内の形態特性には差異がみられ,定量的には,神社境内のほうが寺院境内よりも都市内空地としての利活用の可能性が高いことが確認できた。
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