研究課題の対象である、近代鉄筋コンクリート(以下、 RC)造建築物は、保存・修復の指針が無い為に、各建築物の劣化状況や活用方法に応じて計画され修理工事が行われている。その結果、これらの中には、歴史的価値の失ってしまったものが多くある。以上のことを踏まえ、本研究では、国際的な保存・修復の指針であるヴェニス憲章に鑑み、近代RC造建築物における保存・修復の指針を作成することを目的とする。研究初年度は、対象建築物の外観のうち、外部仕上げ材料に着目した。日本における近代RC造建築物の当初外壁仕上げ材料は、残り難いとされているが、材質別の調査結果によると、当初材の約6割が残されていることが分かった。これらの多くは石、タイル、テラコッタの張り物である。そして、これらが劣化し修理工事を行う場合でも、当初材と同一材料を適用する傾向が多く見られた。その一方で、左官によるモルタルの仕上げは当初材が失われ易く、多くが塗装の仕上げに置き換わっている。塗装の仕上げは二つに大別でき、一つは失われつつある左官によるモルタル仕上げに類似するもので、もう一つは、戦後、戦災復興から高度成長期において大量の住宅供給を満たす為に施工性が良く安価な吹き付けリシンと吹き付けタイルであった。とりわけ後者の塗装仕上げが、近代RC造建築物の修理工事で多く適用されていることに対して問題があることを指摘した。近代RC造建築物の外壁の仕上げ材料は、当初材を残すことを最優先とし、当初材と異なる塗装の仕上げを適用する場合は、その扱いに方に留意することで、日本における近代RC造建築物は文化財的な保存が出来ることを明らかにした。
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