鉄筋コンクリート(以下、RC)造建築物は、登場してからの歴史が浅いにも関わらず、コンクリートの中性化をはじめ、様々な劣化が生じることで社会問題となっていることは周知の通りである。これらの問題を解決する為に、多くの研究がなされRC造建築物を維持させる方法が数多く開発されている。しかし、これらは本研究の対象である歴史的価値を持つ近代RC造建築物へ適用する場合には、その価値が失われることがあり、度々問題となる。その理由は、近代RC造建築物に対する保存・修復の指針がないことが挙げられる。よって本稿では、歴史的建造物の保存・修復の国際的な指針となるヴェニス憲章を鑑み、近代RC造建築物における保存・修復の指針を作成することを目的とする。 二年目となる本年は、地震国である我が国において社会問題の一つである、耐震性能が不足する建築物に対する補強に着目し、近代RC造建築物の耐震補強について研究を行った。その結果、日本の近代RC造建築物の耐震補強は様々な方法が採用されているが、ヴェニス憲章で述べている、付加したものは区別することができ、かつ調和をとらなければならないことに対して、それらの多くは区別することが困難であることが分かった。それは、補強したものを仕上げ材料によって隠蔽している為である。耐震補強は、仕上げ材料によって隠蔽し、周囲と調和をとる前に、まず、それと区別する必要性が重要であることを明らかとした。
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