研究課題
本年度は、近代日本の鉄筋コンクリート造建築における構造補強に着目した研究を行った。地震国である我が国において、建物の耐震性は常に問題視される課題であり、とりわけ、阪神淡路大震災以降、耐震強度の不足する建物に対しては早急な補強が求められている。そのために、我が国では建物の耐震強度を満たすために多種多様な補強構法が研究開発され、実用化がなされている。ところが、その多くは現代建築を対象としており、歴史的価値が認められる近代鉄筋コンクリート造建築にそのまま適用するには問題が生じる。なぜならば、補強構法を開発している機関は建設会社の研究所が大半であり、あくまでも建築物の堅牢性と機能性を確保することを優先し、歴史的価値の保存については明確な指針がないのが現状だからである。そこで、歴史的建造物の保存・修復に関する国際的指針である『ヴェニス憲章』とイコモスの『歴史的建築物の構造補強に関する原則』、そして文化庁の『重要文化財(建造物)基礎診断実施要領』で示されている構造補強における当初部分と後補部分の区別、補強箇所の可逆性、当初材の尊重に着目して76件の事例を考察し、これらの指針が近代鉄筋コンクリート造建築に適用できることを明らかにした。また、近代建築は景観において重要な役割を果たす場合が多いことから、外観における歴史的価値を最優先することが肝要であり、補強はできるだけ内部で行うように配慮すべきであることを検証した。さらに、補強箇所を仕上げ材によって隠蔽することや、多くの建物に適用可能な画一的な補強は避け、個々の建物の特徴に合わせた補強構法についても考察を加え、当初から抱える構造的弱点もまた歴史の痕跡の一つとして捉え、その部分を取り除くのではなく、当初材の特徴を活かしながら補強するべきであることを明らかにした。
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日本建築学会計画系論文報告集
巻: Vol.76,第660巻 ページ: 495-502
東海大学工学部紀要
巻: 50号第1巻 ページ: 44-48