研究概要 |
地球温暖化などの地球環境問題に対する解決策のひとつであるクリーンエネルギーとして水素の利用が注目されている。水素吸蔵合金は、水素の貯蔵・輸送装置、水素自動車用燃料タンクなどへの応用が考えられており、クリーンエネルギーへの転換に欠かせない材料である。LaNi_5系合金は水素吸蔵合金として実用化されている合金であるが、水素吸蔵・放出を繰り返すことによって、吸蔵量が低下するなどの性能劣化が起こることが問題となっている。LaNi_5へのSnの添加は、この水素吸蔵・放出繰り返しによる性能劣化の抑制に効果があることが知られているが、そのメカニズムは不明である。本研究では、この原因を明らかにするため、LaNi_5とLaNi_<4.8>Sn_<0.2>合金の水素吸蔵・放出繰り返しによる劣化過程を、陽電子寿命測定を用いて調べることにした。これまでにLaNi_5について、300回までの水素吸蔵・放出サイクルを行う間での陽電子寿命変化の測定を行ったので、今年度はLaNi_<4.8>Sn_<0.2>ついて300回までの水素吸蔵・放出サイクルを行う間での陽電子寿命変化の測定を行った。水素吸蔵は3MPaの水素圧力を負荷することによって、水素放出はロータリーポンプで真空排気することによって行い、いずれの処理も温度248Kにおいて行った。水素吸蔵を行う前の陽電子平均寿命は、LaNi_5とLaNi_<4.8>Sn_<0.2>いずれも、128psであったが、水素吸蔵・放出1サイクル後の陽電子平均寿命は、LaNi_5が182psであるのに対して、LaNi_<4.8>Sn_<0.2>は150psであった。この結果は、水素吸蔵・放出サイクルを繰り返すことによって形成される格子欠陥量が、LaNi_5に比べて、,LaNi_<4.8>Sn_<0.2>では著しく少ないことを示唆しており、このためにLaNi_<4.8>Sn_<0.2>では水素吸蔵・放出繰り返しによる性能劣化が抑制されている事が明らかになった。
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