異方性弾性体中の任意の形状をした転位ループ間の相互作用エネルギーを計算する積分式、およびそれに基づいた計算プログラムを作成した。以下に本研究の目的と研究成果を詳しく記述する。材料として利用されている物質のほとんどが弾性論的には異方性弾性体である。しかしながら、異方性弾性論やそれにもとついた転位論は数学的な形式が複雑なので敬遠されてきたように思う。そこで、本研究では異方性を扱った弾性論の数理を研究すると同時に、分かりやすい形式で転位論を記述する方法を模索し、転位の周りの応力場や転位間の相互作用エネルギーを計算する計算コードを開発することを目的にしている。本年度は異方性弾性体中の2個の転位ループの相互作用エネルギーを計算する式を具体的に、また分かりやすい過程で導出することができた。そのためには転位の作る応力場に対応する応力関数を得なければならない。そのために、(1)応力関数を線形変換し、新しい応力関数を作る。(2)この変換によって応力場を電荷分布、応力関数をそれに対応したCoulombポテンシャルに相当する関係に置き換えることができる。つまり応力場と応力関数の6成分はお互いにPoisson方程式の関係で記述される。(3)Poisson方程式の解法はよく研究されているので、比較的簡単に応力関数を計算できる。(4)応力関数から転位ループ間の相互作用エネルギーを表す積分形を得た。積分は転位線に沿った2重の線積分である。(5)それをもとに相互作用エネルギーを計算するプログラムを作った。解析的に計算できる等方弾性体の問題と比較しても一致していることが証明できた。以上が20年度に行った研究成果の概要である。こうした成果は国内の学会や国際会議dislocations2008で発表する機会があった。
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