本研究は、異方性弾性体中の転位ループ間の相互作用エネルギーを計算する積分式、およびそれに基づいた格子欠陥に関連する計算プログラムを作成することを目的としている。材料として利用されている物質のほとんどが弾性論的には異方性弾性体である。しかしながら、異方性弾性論やそれにもとついた転位論は数学的な形式が複雑なので敬遠されてきたように思う。そこで、本研究では異方性を考慮した弾性論の数理を研究すると同時に、転位の周りの応力場や転位間の相互作用エネルギーを計算する計算コードを開発することを目的にしている。昨年度は実際に(1)転位ループ問の相互作用エネルギーを計算するプログラムを作成したことと、(2)異方性弾性体に関する応力関数に関連して一昨年度よりもより分かりやすい導出方法を発見したことが主な成果だった。(2)に関連しては、以前は三次元の応力関数にはBeltramiの応力関数を使っていた。しかしながら、別の形式の応力関数を用いた方が応力場を簡単に表現できることがわかった。それに基づいて(1)の計算プログラムを作成した。新しい形式を利用することで相互作用エネルギーの導出過程を短くすることができた。さらに、本研究は転位芯構造を高い精度で計算する手法の1つであるFlexibleな境界条件にも応用できることがわかってきた。これは第一原理計算で転位に関する計算をする際に利用でき、高い精度で転位芯の原子構造が計算できることが期待される。そこで昨年度からは(3)第一原理計算への応用も視野に入れた研究を開始した。以上が21年度に行った研究成果の概要である。(1)と(2)の応力関数および計算プログラムに関する研究成果は国際会議ICFRM2009(札幌で開催)で発表する機会があった。
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