材料として利用されている物質のほとんどが異方性弾性体である。しかしながら、異方性弾性論に基づく解析はその理論の複雑さのために敬遠されてきた傾向がある。本研究では異方性弾性論の数理を解明することと同時に解析に役立つ計算コードの開発を目的としている。線型弾性論を仮定すると独立な弾性定数は最高で21個である。そこで、そのような異方性弾性体の中にある任意の形状をした転位に対応する応力関数の積分形を求め、さらに2つの転位ループ間の相互作用エネルギーを計算するための計算コードを開発した。 格子欠陥の計算にはマルチスケールシミュレーションが有効と考えられている。それは、欠陥に近い歪の大きい領域は第一原理計算や経験ポテンシャルなど非線型な計算で処理し、欠陥から遠い領域の計算は弾性論を用いることで、多くの原子でより正確な計算をしたのと同等な効果を得ようとする計算方法である。フレクシブルな境界条件もその計算方法の1つであり、計算に用いるセルの体積や形状を最適に変化させる方法である。例としてBCC金属空孔中の水素の安定構造に関する第一原理計算を開始した。ところが、この分野には多くの問題が残されていることがわかってきた。たとえば、タングステンは核融合炉材料として期待されているが、タングステン空孔には従来の理論計算では水素は6個しか捕獲されないと考えられてきた。しかし実際は12個も捕獲されることがわかった。 さて、弾性論およびフレクシブルな境界条件は第一原理計算に利用できることがわかってきた。空孔を含むスーパーセルの形状や体積を変化させることで最適な凝集エネルギーが得られる。最適なセルの体積変化量とそれによる凝集エネルギーの修正量の間には弾性論で説明できるような関係式が成立していることが明らかになった。
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