本研究は、原子炉燃料および核変換処理母相の候補材料である窒化ジルコニウム(ZrN)の照射損傷過程の特徴を整理することを目的としており、電子顕微鏡を用いて各種放射線照射により形成された照射欠陥集合体の微細構造観察を行なった。この際、ZrN結晶の照射損傷過程に関する知見がほとんど得られていないという現状を踏まえ、まず(1)単純な形態のフレンケル対を導入する超高圧電子顕微鏡による「その場」法により、ZrN中の照射欠陥集合体の形成・成長過程を調べ、次いで、(2)核分裂片の照射効果を模擬する高速重イオン照射による高密度電子励起に伴うイオントラックの形成について調べた。以下に、得られた成果の概要を記す。 (1)300K〜990Kの温度範囲で、1000keV電子を3x10^23e/m^2sの照射線束密度で照射しながら、微細構造変化の「その場」観察を行なった。370Kまでの照射温度では、0.7dpa(N原子換算)まで照射しても照射欠陥は観察されなかった。650K以上の温度でドット状コントラストが形成され、温度と共に照射欠陥のサイズは増加した。 (2)ZrN結晶では構成元素の質量差が大きいため、電子照射下では軽元素の窒素副格子に優先的なはじき出し損傷が生じると考えられる。しかしながら、ZrO_2やCeO_2に形成された陰イオン格子間原子集合体と考えられる照射欠陥は形成されず、顕著な選択的はじき出し損傷の効果は現れなかった。 (3)210MeV高速重イオンを照射した試料中にはイオントラックが観察されたが、その分布は極めて不均一であった。この結果については、試料中の不純物の効果も含めてH21年度に研究を継続する。
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