本研究は、プルトニウムや長寿命核種の削減・消滅処理のための母相材料として期待されている窒化ジルコニウム(ZrN)の原子炉照射環境下における微細構造安定性を明らかにすることを目的とし、210MeV Xeイオンならびに2.4MeV Cuイオンを照射したZrN焼結体の微細構造観察・分析を透過電子顕微鏡法により行った。210MeVXeイオンおよび2.4MeV Cuイオンは、それぞれ、主として高密度電子励起および弾性的はじき出し損傷を誘起する。焼結体試料は、不純物濃度の異なる3種類の原料粉末から作製したものを用い、照射欠陥形成の差異を比較した。本研究により、以下のことが明らかになった。 (1)比較的高濃度のCおよびO原子を不純物として含む焼結体には、イオントラックと考えられる照射欠陥が極めて不均一にフレネルコントラストとして観察された。これらの欠陥は、ジルコニア等の析出物相や窒素濃度の低い領域にのみ形成された。 (2)ZrN母相には、210MeVのXeイオンを1×10^<18>ions/m^2の照射量まで照射してもイオントラックは形成されず、さらに転位ループ等の照射欠陥も形成されなかった。すなわち、ZrN母相は高密度電子励起に対してこの照射量までは強い耐性を示すことが分かった。 (3)不純物濃度の低い試料に、210MeVのXeイオンを1×10^<19>ions/m^2の照射量まで照射すると、イオントラックは形成されないものの、転位等の照射欠陥及びボイドが高密度で形成され、一部の領域の結晶粒が微細化していることが分かった。これは、高密度電子励起の重畳に伴って蓄積された点欠陥の離合集散によって生じたものと考えられる。 (4)2.4MeVのCuイオンを高照射量施した試料では、2nmのドット上の転位ループが形成され、照射量の増加に伴い、成長、合体していくことが観察された。
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