研究概要 |
炭素材料の劣化は多くの場合,炭素表面の酸化に起因するが,この分析技術は確立されておらず,炭素表面酸化の簡便かつ高精度な状態分析および定量分析技術の開発が急務となっている。そこで,本研究では,放射光軟X線分光法を利用して,複雑な局所構造をもつ炭素材料の酸化(劣化)分析・評価技術を開発することを目的とする。具体的には,最近我々が提案した全電子収量軟X線吸収分光法による炭素表面酸化の状態・定量同時分析法について,実験を通してこの可能性と適用限界を明らかにするとともに,産業界の実材料を分析して本法の実用性を検証する。 本年度は,本法をダイヤモンド系(sp3系)炭素材料に適用するため,酸素官能基を有する脂肪族化合物の軟X線吸収スペクトルを測定した。放射光測定は米国のAdvanced Light Source(ALS)で行った。そして,各化合物のOK/CK吸収強度比とO/C原子比との相関を求め,この相関から酸素を定量する検量線の最適描画法を明らかにした。そして,この検量線を用いれば数%オーダでダイヤモンドやsp3炭素を基本骨格とする有機系炭素材料の酸化状態の定量分析が可能になることを示した。さらに,本法の実用性を実証するため,食品分析へ適用した。具体的には,劣化の要因が不明な播州駄菓子“かりんとう"に着目し,この酸化劣化のを評価した。その結果,かりんとうの劣化は,内部脂質部の自然酸化に加えて,光照射によって表面糖質も酸化されることを明らかにした。これにより,本研究で開発した分析法が食品の劣化分析に適用できることを実証できた。 ニュースバルにおける分析環境の立ち上げについては,ビーム集光素子にガラスキャピラリーを利用する方法を考え,様々な曲率をもつガラス管を用意した。
|