研究概要 |
炭素材料の劣化は多くの場合炭素表面の酸化に起因するが,この分析技術は確立しておらず,炭素表面酸化の簡便かつ高精度な状態分析および定量分析技術の開発が急務となっている。そこで,本研究では放射光軟X線分光法を利用して,複雑な局所構造をもつ炭素材料の酸化(劣化)分析・評価技術を開発することを目的とする。具体的には,最近我々が提案した全電子収量軟X線吸収分光法による炭素表面酸化の状態・定量同時分析法について,実験を通してこの可能性と適用限界を明らかにするとともに,産業界の実材料を分析して本法の実用性を検証する。 本年度は,昨年度の検証実験をさらに発展させ,本法を重要な工業炭素材料の分析・評価に適用した。具体的には,(1) タイヤに用いられる工業ゴム(天然ゴム,炭素配合ゴム)と(2) 各種電子材料の分散材として用いられるカーボンブラック(CB),および(3) 電池電極材として用いられる黒鉛を対象とした。その結果,(1) 天然ゴムにおける酸化反応の経時変化を捕らえるとともに,ゴム/炭素界面相の存在を明らかにし,(2) 各種の工業酸化プロセスで処理したCBにおける処理条件と酸化量を明らかにした上で,この酸化位置がCB結晶子の炭素六角網面端であることを明らかにし,(3) 電極黒鉛の劣化は炭素表面の酸化反応であることを明らかにした。さらに,本法の酸素を窒素に転換すれば,炭素に取り込まれた窒素の定量・状態分析も可能であることを示した。以上より,本法は多くの工業炭素材料の分析・評価に有効であることを実証した。 ニュースバルにおける分析環境の立ち上げについては,ビーム集光用ガラスキャピラリーを自作して,これを用いた集光実験から10mmφの放射光ビームを1mmφ程度まで集光できることを確認した。
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