研究概要 |
炭素材料の劣化は多くの場合炭素表面の酸化に起因するが,この分析技術は確立しておらず,炭素表面酸化の簡便かつ高精度な状態分析および定量分析技術の開発が急務となっている。そこで,本研究では放射光軟X線分光法を利用して,複雑な局所構造をもつ炭素材料の酸化(劣化)分析・評価技術を開発することを目的とした。具体的には,最近我々が提案した全電子収量軟X線吸収分光法による炭素表面酸化の状態・定量同時分析法について,実験を通してこの可能性と適用限界を明らかにするとともに,産業界の実材料を分析して本法の実用性を検証した。加えて,本実験を通して全電子収量軟X線吸収分光法を用いた定量分析に関する基盤知見を取得した。 本年度は昨年度に引き続き検証実験を重ね,カーボンナノチューブ,フラーレン重合体,電子材料用途の黒鉛材料を対象とした。その結果,いずれの試料系についても炭素表面の酸化構造と組成比を求めることができ,本法が実用的な手法であることを実証した。さらに,本法を窒素含有炭素にも適用し,実際に電極材料用途の窒素含有炭素に適用した。また,標準試料を用いないで全電子収量軟X線吸収分光法を定量分析に用いる場合には,あらかじめ組成間の電子収量比を明らかにしておくことが必要であることを提案した。今後,この新しい定量技術を確立するための基盤実験が必要である。 ニュースバルにおける分析環境の立ち上げについては,刻線密度1800mm^<-1>の回折格子をビームラインに導入し,分光特性を評価した。その結果,BK~OK領域で分析に十分な光強度と分解能が得られることを確認した。以上より,適切な標準試料を用いた放射光軟X線分光測定による炭素材料の酸化状態・定量同時分析技術を開発し,本法をニュースバルで実現できる見通しを明らかにした。
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