研究概要 |
本研究では、MPB (Morphotoropic Phase boundary)近傍でのリラクサー型強誘電体固溶体単結晶のドメイン構造、中でもナノドメインを構成するPolar nanoregions (PNR)が、その材料の圧電特性、誘電特性にどのように関係しているかを調べることを主な目的としている。また、電子デバイス材料に有害な鉛などを使用しない強誘電体固溶体材料の開発が重要視され、特に優れた特性を示すリラクサー系のビスマス化合物(Na_<1/2>Bi_<1/2>)TiO_3や(Na_<1/2>Bi_<1/2>)TiO_3-BaTiO_3系固溶体などの単結晶を育成し、その特性の評価を行うことを目指したものである。結晶育成は、仕込み量(NBT-5mole%BT ; NBT-BT (95/5))からブリッジマン法により単結晶を育成した。ICP分析でBT含有量を測定し、X線回折法で結晶軸方位を確定してRhombohedral板(001)を切り出し、測定試料を作成した。試料の(001)面にITO電極をスパッターし、インピーダンスアナライザーで誘電率の温度依存性を測定し、ソーヤー・タワー回路でP-E履歴曲線を観測し、ミリトロン計で電歪特性を測定した。次に、Rhombohedral (001)板を厚さ100μmまで光学研磨し、圧電応答プローブ顕微鏡(PFM : SPA300/SPI3800N、Seiko Instruments)を使用して、ティプ半径70nmのカンチレバー(SI : DF3-R (100)、f=25kHz、C=1.4N/m)を用いてnanometer-scaleでのドメイン応答を測定した。 0.95NBT-0.05BTのRhombohedral (001)板でのP-E履歴曲線は、90kV/mの電界でも分極反転は生じなかった。これに伴なう電界誘起歪特性では、マクロな分域反転は観測されなかったが、非常に大きな圧電定数d_<33>=250pm/Vが測定された。このとき、圧電応答プローブ顕微鏡PFMによるnanometer-scaleでの分極反転が10Vティプ印加電圧での電圧V-歪Z測定において観測され、およそ100nm程度のナノドメインが観測された。一方、Tetragonal-Rhombo-hedral相転移点T_<rt>以下の温度領域で観測されるVogel-Fulcher型の誘電分散は、f=f_0exp(-E_a/K(T_m-T_f))、f_0=2.2×10^<10>Hz, τ_0=7.23×10^<10>s, E_a=0.092eV, T_f=320K程度となりτ_0はDebye frequencyに近いことから、単結晶内でPolar nanoregions (PNR)の再配列がatomic scaleで起きていると考えられる。以上のように、本研究により、優れた圧電特性を生み出す基となるドメイン構造、特にナノドメインを構成するPNRの役割を実験的手法により明らかにした。
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