カーボンナノチューブ(CNT)分散複合材料の力学特性を理解するためには、CNTとマトリクスの変形を直接観察することによって実際の現象に即した物理モデルを構築し、界面における力の伝達を定量的に明らかにしていくことが肝要である。そこで、CNT分散複合材料の変形・破壊挙動を、透過型電子顕微鏡(TEM)や走査型電子顕微鏡(SEM)中においてその場(in-situ)で観察する技術を確立することを目的として研究を実施した。平成20年度には変形をうけるCNT分散複合材料のTEM・SEM観察を行うためのin-situ TEMおよびSEM観察装置の製作を、平成21年度にはこれらの装置を用いて、マトリクスからCNTを引き抜く力を定量的に評価する手法(Nano-pull-out法)、およびマトリクスとCNTの変形量(ひずみ)を定量的に評価するための実験手法について検討してきた。 これらの成果を踏まえ、本年度はこれまでに製作してきた装置および検討してきた実験手法の改良を進めるとともに、CNT分散PEEK複合材料を対象として、マトリクスの変形に伴うCNTの変形挙動を詳細に観察し、CNTとマトリクス間での荷重伝達に関する観察・実験データの取得を進めた。また、変形量の定量評価に資するため、デジタル画像相関法を適用した。また、CNT引き抜き長さを制御するための実験手法を新たに提案し、安定したNano-pull-out試験が実施できることを示した。その結果、CNT分散PEEKではCNTと樹脂の接着が分子間力による弱い結合が支配的であること、そのためCNTへの荷重伝達が小さく、CNTの強化材料としての性能が十分に発揮されていないことが定量的に明らかとなった。
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