準安定オーステナイト系ステンレス鋼SUS304とSUS316を室温および77Kで多軸鍛造(MDF)を行い、変形双晶と低温型連続動的再結晶の協調効果による結晶粒微細化とその機械的性質を調査した。矩形状に切り出した両ステンレス鋼を、焼鈍により初期粒径36μmと100μmに調整後、パス間ひずみΔε=0.4、初期ひずみ速度3×10^<-3>S^<-1>で温度77Kと300KでMDF加工を施した。MDF後、最終圧縮軸と平行な縦断面の透過型電子顕微鏡(TEM)による組織観察を行った。引張試験と硬さ試験により機械的性質も調査した。 MDF中、低ひずみ域では急激な加工硬化を、高ひずみ域で緩やかな加工硬化を示した。77Kではより顕著な加工硬化を示した。高ひずみ域では定常状態変形類似となり、加工硬化と回復による低温型連続動的再結晶と結晶粒微細化が進行していることが示唆された。MDF材のTEM観察結果から、変形双晶が初期粒を分断し、さらに高次双晶がそれらを分割細分化し、結晶粒の微細化が起こることが明らかとなった。最終粒径は20nmと超微細であった。しかし、SUS304では変形開始と同時にマルテンサイト変態が発現し、変形双晶誘起の結晶粒の超微細化はやや起こりにくかった。MDF材の引張試験結果から、高累積ひずみ域では、SUS316のMDF材の方がより高い強度が達成され、その強度は累積ひずみの増加と共に上昇することがわかった。強度は、77KでのMDFの方が室温MDFより高くなり、最大引張強度2.1GPaが達成された。それに対し、SUS304では、MDFによる強度上昇がΣΔε=1.2以上では見られず、最大でも1.8GPaであった。両MDF材ともに、高強度であるにもかかわらず、全伸びは20%以上であり、強度と加工性の優れたバランスを示した。
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