平成21年度は、平成20年度にラスマルテンサイトでの転位組織解析が成功したことを受け、より複雑な転位組織を持つフェライトの加工組織をX線回折と走査型電子顕微鏡/電子線後方回折図形(SEM/EBSD)を併用して解析することを目的とした。具体的には主にFe-1.5mass%Mn極低炭素鋼のフェライトに冷間圧延を施し、この加工組織に対しておける転位組織の解析を行った。 まず、昨年度と同じくX線回折装置を用いた転位密度の測定を行った。この際、X線管球を鉄に対する吸収の高い銅からコバルトに変更した。その為、試料にX線が十分浸透し三次元的な平均組織を解析できると考え圧延面法線方向からの測定を行った。昨年度用いた解析手法ではラスマルテンサイトにおいては全く問題がなかったが、フェライトの冷問圧延組織に対しては異常な解析結果となり、実験方法および解析手法を再検討した。その結果、装置補正用の標準試料を極低歪ZnO粉末を使用したところ、正常な解析結果となった。ことから、マルテンサイトのような高密度の転位を含む組織なら厳密な校正は必要ではないが、比較的転位密度の低い転位組織については慎重な校正が必要であることが分かった。この手法で各圧下率の試料における転位密度を測定したところ、加工硬化のステージと転位密度がよく一致しており、転位組織の定量化に一定の目処がついた。さらに今年度は不均一な転位組織を定量化するためにSEM/EBSDを使った転位密度の解析も行った。その結果、SEM/EBSDで転位組織の不均一性を測定することが出来、SEM/EBSDを併用することで各集合組織の転位組織の違いを加味した定量解析が可能であることが明らかになった。
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