平成22年度は前年度に続きフェライトの加工組織をX線回折と走査型電子顕微鏡/電子線後方回折図形(SEM/EBSD)を併用して解析することを目的とした。具体的には主にFe-1.5mass%Mn極低炭素鋼のフェライトに冷間圧延を施し、この加工組織に対しておける転位組織の解析を行った。また、測定手法の応用として、マルテンサイト鋼の機械的性質や転位組織発達の特異性の解明するためX線回折とSEM/EBSDを用いた解析を行った。 まず、SEM/EBSDを使った解析では、当初近接測定域微小方位差(KAM)解析用いた転位密度測定を試みたが、転位密度が10^<16>m^<-2>と非常に大きな値になり手法の再考を行った。その結果、KAM解析の数値を用いるのではなく「転位組織」のパターンとして解析を行う手法に変更した。 高Cr-高C鋼の力学的特性と微細組織との関係をX線回折とSEM/EBSDを用いた解析を行った。その結果、残留オーステナイトに含まれる炭素量が焼もどし温度の上昇に伴い増加することが明らかになった。また、細かいフィルム状残留オーステナイトは粗大なブロック状の残留オーステナイトと比べ低温の焼もどしで消失すること、フィルム状残留オーステナイトが消滅したときに脆化する事を明らかにした。 低炭素ラスマルテンサイトは加工により非常に微細な組織が形成されることが知られている。本研究では初期微細組織と加工組織の関係の重点を置き解析を行った。その結果、低炭素鋼ラスマルテンサイトに含まれる残留オーステナイトフィルムには1mass%程度の炭素が含まれていることが明らかになった。このフィルムは加工初期で高炭素マルテンサイトフィルムに変態しており、この事が特徴的な微細加工組織を形成した事が明確になった。
|