本年度は、イオンビーム照射により潜在飛跡領域を形成させたポリテトラフルオロエチレン(PTFE)に、基材表面のみラジカル生成が可能な光グラフト重合を組み合わせたグラフト重合法を検討した。膜厚25μmのPTFEに^<15>N^<3+>(56MeV)および^<129>Xe^<23+>(450MeV)を最高3x10^9ions/cm^2のフルエンスで照射後、加熱処理によりラジカルを消失させた。次に、このフィルムをスチレン/アセトン/水からなるモノマー溶液中に浸漬し、高圧水銀ランプ(400W)を用いて、窒素ガス雰囲気下、60℃で光グラフト重合を行なった。Nイオン照射系はフルエンスに依存しないで、グラフト率は一定で7%のグラフト率を示した。この値は、イオン照射を経ない潜在飛跡領域の存在しない未照射系PTFEによるグラフト重合反応で得られたグラフト率と同程度であった。これに対し、Xeイオン照射系ではフルエンスとともにグラフト率は増加し、3x10^9ions/cmのフルエンスにおいて急激な増加が観察された。この原因として、PTFEに対するそれぞれのイオン照射により生成される潜在飛跡領域の大きさが影響していると考えられる。すなわち、Magreeらの式から求めたそれぞれのイオンの潜在飛跡領域は、Nイオン照射系の57nmに対し、Xeイオン照射系では216nmまで大きくなることが分かった。結果として、大きい潜在飛跡領域ほど、モノマーの侵入が早くグラフト鎖の成長を促進すると推察した。さらに、Xeイオン照射系では2.1x10^9ions/cmのフルエンスで潜在飛跡領域が重なるため、3x10^9ions/cmのフルエンスにおいてグラフト率が急激に増加した。これに対し、Nイオン照射系での潜在飛跡領域の重なるフルエンスは3.1x10^<10>ions/cmであり、グラフト率の急激な増加は観察されなかった。
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