研究概要 |
本年度は、イオンビーム照射により潜在飛跡領域を形成させたエチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)膜に、ビニル系モノマーを光グラフト重合した電解質膜のプロトン伝導性(σ)、含水性、耐酸化性などを検討した。AVFサイクロトロンにおいて、25μm厚のETFE膜に^<129>Xe^<23+>イオン(3.5MeV/n)をフルエンス3.0×10^7ions/cm^2で照射した。次いで、1)イオン照射ETFE(iETFE)膜に生成したラジカルをクエンチ(60℃,加熱処理)、2)光化学反応装置を利用して、キサントンを塗布したiETFEをN_2雰囲気下、アセトン/水1:5(v/v)を溶媒とし、スチレン(St)をグラフト重合、3)0.2Mクロロスルホン酸/1,2-ジクロロエタン溶液中でスルホン化(60℃,8時間)、加水分解(70℃,16時間)の手順により電解質膜を作製した。同じIECで比較した場合、ETFE膜電解質膜に比べてiETFE電解質膜の方が、σが高いことが分かった。このことは、同じσを得るためにETFE膜電解質膜では、1.5倍のグラフト鎖が必要であることが示唆された。また、iETFE電解質膜のσは膜面方向に比べて膜厚方向で高い値を示し、異方伝導性があることが明らかになった。同程度のσを持つ電解質膜の含水率では、ETFE膜電解質膜に比べてiETFE電解質膜の方が低くなることも分かった。耐酸化性の向上では、グラフト重合過程でモノマー中にジビニルベンゼンなどの架橋剤を添加することにより、若干改善されることが分かった。さらなる耐酸化性の向上を目指して、フッ素系モノマーの導入を検討したが、高いσを得るだけのグラフト鎖を導入することはできなかった。
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