研究概要 |
粒径50nm程度の導電性TiNをスチレシ-ブタジエンゴム(SBR)に吸着させた複合体をSUS304ステンレス鋼製セパレータに泳動電着させることにより、カーボン拡散層(CDL)との接触抵抗低下とステンレス鋼の腐食軽減を図った。表面処理したステンレス鋼は,模擬燃料電池環境中において未処理ステンレス鋼より小さなアノード電流密度を示した。未処理のステンレス鋼をアノード分極するとCDLとの接触抵抗が1000mΩcm^2程度まで増加したのに対し、処理した場合は分極後も15mΩcm^2程度で実用レベルであった。硬いTiNを弾性のあるSBRの周囲に固定したTiN-SBR複合体は、CDLとステンレス鋼表面との間に介在し、適当に変形して隙間を埋めるとともに、硬いTiNがステンレス鋼の不動態被膜を貫通して良好な導通を与えるものと考えられる。SUS304ステンレス鋼を用いてサーペンタイン型のセパレータを試作し、本表面処理を施したうえで発電試験を行った。発電電圧は未処理ステンレス鋼製セパレータを用いた場合より約100mV高く、グラファイト製セパレータを用いた場合とほぼ同じであった。未処理ステンレス鋼製セパレータの場合、1000時間発電後の膜電極接合体(MEA)中の鉄量が明らかに増加したのに対し、表面処理したセパレータの場合は増加が認められなかった。TiN粒子の化学状態をXPSで調べた結果、発電前後でほとんど酸化が進行していないことが示された。本処理を行ったセパレータ表面は水との接触角が増加していたことから、水の排出が促進されるとともに、CDLとの界面に水が滞留しにくくなり、腐食が抑制されたものと推定された。このように安価なSUS304ステンレス鋼に対してTiN-SBR複合体を電着することにより、実用レベルのセパレータを容易に調製できることが明らかとなった。
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