研究概要 |
本研究の目的は,ボイラー水環境(pH9,140℃)で炭素鋼に生じる減肉現象であるエロージョンコロージョン/FACが,流速の高い部位あるいは乱れのある部位に生じる複雑な劣化機構を明らかにすることである,この劣化機構を明らかにするために,研究初年度に一般に行われている実機を想定した流動試験の替わりに,試験液を流動させないバッチ試験装置を設計・製作した. 試験環境として,実機環境に近いpH9(アンモニア水で調整,酸素濃度50ppb以下),140℃の他に,pHおよび温度の影響を求めるために,試験環境をpH7,温度80〜180℃の範囲で24時間の静止腐食試験を行った,その結果,pHおよび温度によって腐食量が異なることが分かった.また,24時間の試験によって汎用炭素鋼試験片の腐食量は検出され,試験表面に酸化皮膜が形成されていることを確認した.静止試験では試験片の質量減少量は100℃で最大となり,実機の減肉が大きい140℃とは異なる結果となった.酸化皮膜を除去した後の炭素鋼試験片の総減量および酸化皮膜の質量を測定することにより,酸化皮膜の形成量と溶解・破壊量の内訳を求めることができた.その結果,140℃の環境で総減量は最大となり,静止試験では,実機の流動環境で生じる減肉現象に基本的に類似していることが分かった.本申請設備のレーザーラマン分光装置による皮膜の特定は,装置組立・セッティング中であることもあり,正確には求められていないが,酸化皮膜がマグネタイトであることを示唆する結果を得た.酸化皮膜の機械的性質については,まだ充分な試験データが得られていない状態であるが,マグネタイト形成状態が試験時間によって異なることを見出し,酸化皮膜の生長挙動がエロージョンコロージョン/FACの減肉現象解明の糸口となることを示唆する結果となった.本試験内容の一部を腐食防食協会主催の第55回材料と環境討論会で発表した.
|