アーク溶解後のTi/Tic複合材料の熱処理によるTiC粒子中へのTi析出を詳細に調べるために高分解能透過電子顕微鏡(HRTEM)観察を行った。得られた結果はつぎの通りである。 まず、TiC中においてα-Tiが析出している付近のHRTEM観察を行ったところ、α-Tiの格子は非常に乱れていた。これは高密度の転位やC原子の固溶などが原因しているためである。また、これと隣接した場所では、面間隔が0.49nmの格子縞が見られた。これはTiC(111)の2倍の長さを持つ周期であり、TiCの超構造であるTi_2Cの(111)であると考えられる。さらに、一方向にのみ格子のコントラストが観察されることから、この部分の結晶構造はR-3mであると推測される。一方、α-Tiから少し離れた場所では0.24nmの間隔の格子縞が観察された。これはTiCの(111)の面間隔に良く一致する。つまり、多くの空孔を含んだ非平衡状態のTiCには、空孔が規則化した極めて微細なTi_2Cが大量に形成されており、熱エネルギーを加えることによりTi_2C領域からC原子の拡散が起こり、C量が低下した領域がα-Tiへと変化したものと考えられる。 次にTiC粒子中でα-Tiが析出していない領域のHRTEM観察を行った。こちらにも先ほど述べたようにTiC(111)のコントラストが確認できた。また、TiC(111)の2倍の周期でコントラストの領域も存在する。しかし、これは先ほどとは異なり、二方向のコントラストが見られることから、この領域のTi_2Cの結晶構造はFd3mであることが確認できた。よって、TiC中に存在するTi_2Cの結晶構造は三方晶系のR-3mと立方晶系のFd3mの両方が存在するが、析出Ti付近ではR-3mが多数観察されることから、板状Ti析出はR-3m型のTi_2Cから形成されると結論付けられる。
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