研究概要 |
鉄鋼業では精錬に不可欠なスラグが恒常的に排出されている.スラグはアルミニウム,カルシウム,シリコンの酸化物を主成分として,鉄,マンガン,クロム,亜鉛などの酸化物やセレン,フッ素などが含まれている.このうち,鉄とマンガンなどは鉄鋼原料として有用である.また,クロムや亜鉛などの環境規制物質はスラグの再利用を妨げているので除去すべきものであるが,視点を変えれば,それは有価な物質である.そこで,本研究ではスラグから炭酸溶液中に有価物を抽出分離することを目的とした. 実験には,電気炉の普通鋼およびステンレス鋼溶製時に排出される酸化スラグを主に用いた.実験は,タンクリーチング法を用いた溶出量におよぼす二酸化炭素分圧の影響調査と湿式粉砕時の溶出調査の2つの実験に大別される. 二酸化炭素分圧が制御された雰囲気でのスラグのタンクリーチング試験では,雰囲気中の二酸化炭素分圧の増加に伴い,溶液のpHが低下した.それに伴い,全般的に見て,溶出量は増加した.二酸化炭素分圧が4気圧,9気圧ではカルシウムの溶出量は時間とともに増大した後,炭酸カルシウムの生成により溶出濃度は減少した. 二酸化炭素中での湿式粉砕によるスラグの溶出実験では,スラグ中クロムの水溶液への抽出率はスラグの種類によらず,0.0014%以下であり,水溶液への抽出はほとんどできなかった.一方,亜鉛の抽出率は普通鋼酸化スラグでは約3%であったが,ステンレス鋼スラグで81,100%であった.本法により,ステンレス鋼酸化スラグでは,二酸化炭素を炭酸カルシウムとして固定できるとともに,亜鉛を水溶液へ抽出できることを見出した.
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