研究概要 |
金属原料には市販のTi,Cr粉末を遊星型ボールミルで微粉化したものを用い、硫黄および黒鉛粉末と共に下記の反応式(1)〜(2)に従って秤量、混合した。これを軟鋼製反応容器へ充填後、その最上部にタングステン製コイルヒーターを埋設し、約2〜3秒間1200〜1500VAの条件で通電加熱し反応を開始した。この時、燃焼波速度(合成反応速度)を求めた。なお、反応は大気中の条件で行った。 4Ti+2C+xS→Ti4C2Sx (x=2〜6)----(1) Cr+S→CrS----(2) まず(1)の反応について報告する。各反応系において高温合成に伴う硫黄量の変動を最小限に抑えるため反応初期温度を-15℃に設定したものと、室温で行うものの2条件を設定した。生成物はX線回折による生成相の同定、走査型電子顕微鏡(SEM)観察による基本的な特徴づけを行った。結果として、合成反応速度は2.0〜22.5mm/secの値を示し、室温条件で組成比がTi: C: S=2: 1: 1のものが最も速く、効率的な反応であった。しかし、X線回折実験の結果から、この条件で得られた生成物にはTiCとTi3S4相の副生成物が比較的多く検出されたのに対して、-15℃の初期温度で合成されたものではTiCがほとんど形成されず、Ti3S4相が若干検出される程度に抑えられていた。TiC相は硬質であり、固体潤滑性に悪影響を及ぼすことが懸念されることから低温条件での合成条件の設定は結果的に有効であった。また、SEM観察の結果からデンドライト(樹枝状)組織を示し、固体潤滑性に有効な層状構造に類似していることから良好な特性が得られるものと期待される。次に(2)の反応で得られた生成物の動摩擦係数をpin-on-disc法で測定した。測定条件は荷重100g,線速度1cm/sとした。Disc状の試料には、合成物の塊状部分をそのまま用いたもの(酸化処理前)と、大気中1000℃×30分間の条件で熱酸化処理したものを用意した。結果として0.5〜15秒間の時間平均動摩擦係数は、酸化前で、0.1197、酸化後で0.1815を示し、本条件下では良好な固体潤滑特性を示し、有望な試料であることが示唆された。
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