燃焼合成法は、異種元素間の高い発熱反応が試料全体に持続的に伝播しながらセラミックス等を合成する低コストな方法として知られている。本研究では、燃焼合成法を利用して層状構造を有する遷移金属系の炭硫化物を安定的かつ大量に合成し得る方法を確立し、これを「鋼の被削性を向上させる添加剤」または「固体潤滑剤」の製造方法として応用しようとするものである。得られた合成物が要求される性能を有するか否かは結晶構造解析、機械的性質、熱分析、摩耗試験等の測定を通して評価を行う。これらの特性向上には層状化合物に特有な相間剥離の現象が有効であることから、本法で得られる合成物は両特性を容易に向上させられることが期待されている。層状構造を有するTi系炭硫化物が、添加物を加えずに十分安定的に得られるという前年度までの成果を受けて、平成21年度では、他の遷移金属であるジルコニウムZrを用いた炭硫化物の合成を試み、その生成物の評価を行った。Ti系と同様に、Zr粉末に黒鉛および硫黄の粉末を所定の比率で混合し、合成を試みた。その結果、過剰な反応性に加え、結晶性の悪い物質のみ得られる状況だったことから、反応を抑制するために高融点のモリブデンMoを添加して合成を行ったところ、良好な反応傾向を示し、結晶性も向上した。得られた物質を電子顕微鏡で観察したところ、きれいな層状構造を示していた。このように添加元素を適切に選択することでZr系炭硫化物が安定的に得られることを明らかにした。また、得られた物質が層状構造を有していたことから、次年度行うトライボロジー特性も良好な結果が得られることが期待される。
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