研究概要 |
燃焼合成法は、異種元素間の高い発熱反応が試料全体に持続的に伝播しながらセラミックス等を合成する低コストな方法として知られている。本研究では、燃焼合成法を利用して層状構造を有する遷移金属系の炭硫化物を安定的かつ大量に合成し得る方法を確立し、これを「鋼の被削性を向上させる添加剤」または「固体潤滑剤」の製造方法として応用しようとするものである。これらの特性向上には層状化合物に特有な相間剥離の現象が有効である。研究期間2年度までに、層状構造を有するTi系炭硫化物が、添加物を加えずに十分安定的に得られること、また、同じ遷移金属のZr炭硫化物の合成には、その過剰な反応性を抑制するために高融点のMoを添加するのが有効であり、結晶性も向上することを明らかにした。最終年度では、これらの生成物の評価をより詳細に行った。まず、Zr:Mo:S:C=(2-x):x:1:1の組成比を持つZr系炭硫化物の合成において、x=0.2までは炭硫化物単相が得られるが、それ以上のMo添加量ではMo炭化物等が生じ、複数相が混在したものとなった。また、透過電子顕微鏡観察結果から、x=0.4までは比較的明瞭な層状構造が確認でき,代表的な固体潤滑剤であるMoS2と同様な構造を示した。また、x=0.6以上の添加量では複雑な結晶形態になることがわかった。ビッカース硬さもMo添加と共に若干上昇傾向を示すが、250-350Hv程度と固体潤滑剤として支障があるほどの値ではでなかった。高温耐酸化性についてTG-DTA分析を行った結果、約400℃までは十分な耐酸化性があるものの500℃以上では酸化が激しくなる傾向が認められた。これより、鋼の被削性向上用添加剤として溶鋼中に同物質を投入・分散させる方法を想定していたが、本方法では同用途に用いるのは難しいと考える。トライボロジー特性として測定した動摩擦係数は、Mo無添加のものでμ=0.12であり、x=0.2と0.4のときにμ=0.11であった。これらは、MoS2とほぼ同程度の値であり、固体潤滑性能として十分期待きるものであった。
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