本研究は物質内部における反応が引き起こす成分元素の移動過程を透過型電子顕微鏡(TEM)で解析することを可能にしようとするものである。前年までに確立した炭素蒸着を利用した酸化鉄との反応解析法をより精密に、また多くの材料に適用できるようにすることを狙っている。そこで20年度は鉄と炭素の反応の解析を試みた。実験方法は酸化鉄を純鉄に取り替えただけであるが、試料作製法は下地が酸化物から金属に変わるため大幅に変更している。この実験は常に炭素と相手物質が接触していることが必要なため蒸着面を清浄にしなければならない。この場合酸化物は割ることで容易に清浄な表面(=破面)を得られるが、鉄は金属のため割ることは困難である。そこで蒸着面をFIBで研磨し、表面を平坦にした。この場合転位ループなどの混入も懸念されるが、鉄そのものが変化するわけではないので鉄と炭素の反応は観察可能である。 この試料を加熱するとおおよそ500℃付近から反応が開始、高温ほど速まる傾向が見られた。また反応の形態は鉄/炭素界面から炭素側へ析出物が成長するというものであった。加熱後EDS、 EELSで析出物の分析を行うと、析出物がほとんど鉄で構成されていることが判明した。この結果から、炭素と鉄は本来鉄中に浸炭が起きないような低温でも活発に反応することを示しており、特に炭素中に容易に鉄が侵入することを示している。
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