最終年度である平成22年度は、引き続き食品汚れとして、乳製品製造装置に付着する汚れの主成分であるβ-ラクトグロブリンを、また汚れの吸着する固体表面として、食品製造装置の素材として頻用されているステンレス鋼をそれぞれ用い、QCM装置により種々の条件下における水溶液中の汚れの吸着および脱着過程の把握を試みた。さらに、仮想的かつ究極的なナノセンシング技術とでもいえる分子動力学法により、食品汚れの付着メカニズムについて、原子レベルの解明を試みた。 その結果、以下の進展を得た。 1、リンス洗浄操作を行った際、ステンレス鋼表面に吸着していたβ-ラクトグロブリンが、除去されたと思われる様子をQCM法で観測することができた。また、その際リンス洗浄により、除去されずにステンレス表面にとどまっていると思われるβ-ラクトグロブリンの存在が確認されたことより、ステンレス鋼表面に付着したβ-ラクトグロブリンには、可逆的および不可逆的に付着している2種類のものが存在していることが示唆された。 2、前年度までに共存物質の種類により、β-ラクトグロブリンのステンレス鋼表面への吸着量が変化することが実験的に明らかとなっていたが、あらかじめステンレスを特定の共存物質(クエン酸など)で前処理しておくことによっても、同様に吸着量が変化することが確認された。 3、2の吸着量変化が生じる機構について、クエン酸前処理場合について、詳細な検討を行った。その結果、ステンレス鋼表面へのクエン酸吸着量とβ-ラクトグロブリン吸着量には、負の相関関係が認められたことより、クエン酸がステンレス表面に吸着することにより、β-ラクトグロブリンの吸着を抑制したことが示唆された。 4、分子動力学法によるβ-ラクトグロブリンの吸着状態のシミュレーションの結果、β-ラクトグロプリンは特定の部位を介して、固体表面に吸着することが示唆された。
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