本研究では燃焼中における、低級の芳香族炭化水素が多環芳香族炭化水素(PAH)に成長する化学反応過程と、これと並行して起こる、PAHの酸化反応に関する知見を得ることを目的として、以下を行った。 (1)加熱型反応器-真空紫外-光子イオン化飛行時間型質量分析法装置を用いて、トルエンの熱分解反応によるPAHの生成過程を観測し、されにこれにアセトンを添加することによって、メチルラジカルのPAH成長反応への寄与を検討した。 (2)理論化学的な手法(量子化学計算・遷移状態理論(TST)計算・RRKM(Rice-Ramsperger-Kassel-Marcus)理論計算)により、PAHの成長過程と酸化過程に関する検討を行った。PAH成長過程においては、従来のHACA(水素引抜C2H2付加)とともにPAC(フェニル付加環化)が重要な役割を果たしていることが確認された。RRKM計算による検討では、HACAあるいはPACの付加反応におけるラジカル付加体への衝突安定化は、すすとPAHの生成が重要となる1000K以上の高温では、大きな寄与をせず、水素脱離が起こることが示唆された。また、PAHの酸化過程においては、PAHからの水素引抜反応および、フェノキシ型ラジカルの分解過程が、酸化の律速段階であることが示唆された。 こららの過程のさらに系統的な研究から、成長・酸化の両面からのPAH生成の抑制の可能性が示唆されると期待される。
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