研究概要 |
昨年度,β型ゼオライト触媒がシクロヘキサノンの過酸化水素によるBaeyer-Villiger(BV)酸化反応に高活性を示すことを明らかにした。本年度は,β型ゼオライトの高活性がその酸特性によるものか,あるいは,細孔構造にあるのかを明らかにするために,細孔構造のことなるβ型ゼオライト構造とZSM-5ゼオライトのMFI構造を持つ,Alを全く含まない結晶性シリケートを合成し酸特性と細孔構造の影響を切り分けて検討した。反応は,ガラス製あるいは,ステンレス製回分式反応器を用いて行った。Alを含まないβ型シリケートおよびMFI型シリケート上で反応は全く進行しなかった。この結果は,本反応が,ゼオライト構造のブレンステッド酸点で進行することが確認された。本反応では,Sn^<2+>等のルイス酸点がカルボニル基の活性化に有効であることが報告されている。そこで逐次的にシリケート細孔内にルイス酸点であるSn^<2+>を導入し,細孔構造の影響を検討した。β型シリケートおよびMFI型シリケートに塩化スズエタノール溶液を用いてSnを含浸担持した。ブレンステッド酸点が無いため,活性は低くより高温にすることで活性を比較した。Snを導入したβ型シリケートの方がSnを導入したMFI型シリケートよりも目的生成物であるε-カプロラクトンの生成量が多く,β型シリケート構造がBV酸化反応に有効であることが強く示唆された。酸量の少ないMFI型ゼオライトを用いた実験から,Snを導入したMFI型シリケートより活性が高いことから,細孔内に反応物が進入できないのではなく,β型構造とMFI構造の違いによる影響があることが示された。特にブレンステッド酸性を有するβ型ゼオライトでは,酸化剤である過酸化水素のBV酸化反応への有効利用率が極めて高く,過酸化水素の活性化にブレンステッド酸点が働いていることが示唆される。MFI構造では,活性の変化はあるものの,ε-カプロラクトンの選択性や過酸化水素の有効利用率はほぼ同じで,酸性質の違いは,過酸化水素の活性化に寄与していると思われる。 被酸化物のシクロヘキサノンと酸化剤である過酸化水素が別の活性点で活性化され反応に寄与していることが示唆されたので,さらにブレンステッド酸性(過酸化水素活性化),ルイス酸性(シクロヘキサノン活性化),細孔構造の3つを制御し反応成績を向上させる試みを検討する予定である。
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