キノコは、食物繊維、ビタミン、ミネラルなどの栄養素が豊富であり、薬理活性成分を含む場合も多いため、古くから漢方薬や民間薬として利用されてきた。なかでも、アガリクス・ブラゼイ、ハタケシメジ、ヤマブシタケ、メシマコブ、カバノアナタケ、冬虫夏草などは健康食品素材や薬用キノコとして特に注目を集めている。 コルジセピンは、冬虫夏草の有効成分の中でも特に注目されている、抗菌・抗腫瘍・転移抑制作用を持つ物質(HIV感染症、白血病治療薬としてフェーズIIIの段階)であり、医薬品への利用が大いに期待されている。天然物由来のものには供給量に限りがあるため、現在、人工培養による生産研究が盛んに行われている。これまでに報告されている最大のコルジセピン生産量は、本研究で行われた野生株Cordyceps militarisの培養によるもので、2.5g/lであった。 産業化を目指すために、その指標となる生産量10g/lを達成するような冬虫夏草菌による薬理活性物質"コルジセピン"の大量生産法の確立を目的として、まず、野生株Cordyceps militarisの菌糸体にイオンビームを照射し、突然変異を誘発させ、続いて、コルジセピン高生産株のスクリーニングを行った。さらに、得られたコルジセピン高生産株に対する最適培地条件の検討を行い、コルジセピン生産量6.8g/lを実現した。 さらに、アデノシンを添加した培地で、コルジセピン高生産株によるコルジセピンの高生産化を試みた。アデノシンを6g/L以上添加することにより、Contrlと比較して有意にコルジセピン生産量が上昇した。アデノシン6g/Lの場合が最高で、生産量は8.6g/Lとなった。本研究の成果は野生株の最大生産量2.5g/lを大きく上回るものである。
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