研究概要 |
コスト的にもマンパワー的にもメンテナンスが行き届いていない漁船機関を対象とした状態監視システムの開発を目的としている.既存漁船に本システムを導入することで機関に作用する高負荷状態,潤滑油性状および機械要素の異常状態監視が容易かつ確実となり安全で無駄を省いた省エネ・省人・省力型漁船に転換することが可能となる.平成21年度はレシプロ機関を対象とした振動音響診断法の検出精度向上を目指している.レシプロ機関のようにノイズ源が多く発生する周波数帯が重なると状態監視対象信号の同定は困難となり異常に関連する信号成分のみを効率的に抽出するSN比向上手法が重要となる.本研究では機械設備の状態監視対象部位に近接する2点間で得られた振動,音響信号を用いて,その相互相関性の高さからノイズ成分を除去する手法とシステム同定手法のパラメトリックモデルの1つであるARXモデル(Auto Regressive Model with Extra Input)を並列に組合せた性質を用い異常信号を効率よく抽出する手法を提案している.提案手法を4ストローク2気筒レシプロ機関の「高負荷状態」「吸気・排気バルブの当たり不良」,「クランクシャフトを支持する転がり軸受の損傷」,「バルブ駆動歯車の磨耗」検出に用いたところ効率よく異状信号成分の抽出が行われ,手法の有効性が証明されている.潤滑油性状の状態監視では機関のピストンーシリンダライナ摺動面での劣化や粘度低下による油膜厚さ減少が原因で摺動面同士の直接接触が生じ,その結果,超音波振動が発生する.ここでは基礎的段階としてピストンーシリンダライナ型往復摺動摩擦試験を使用して潤滑油の種類と粘度(油温)を変化させた状態での超音波振動の測定を実施している.採取した潤滑油性状の分析を行い超音波振動の強度との相関を解析している.その結果,鉱物系オイルとタービンオイルを使用した場合,油温が上昇するに従い周波数帯域30[kHz]~60[kHz]付近のパワーが増加することが判明した.
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