研究概要 |
照射によって導入される格子欠陥の量は、材料における照射による劣化の度合いを示す重要なパラメータである。Norgett, Robinson, TorrensのいわゆるNRTモデルで計算される導入欠陥の量は、その後の照射組織発達に対して有効な欠陥の量とは必ずしも一致しないことがわかってきた。keV以上の高いエネルギーが一次はじき出し原子(Primary Knock-on Atom: PKA)に与えられた場合、局所的なはじき出しの連鎖現象が引き起こされる(カスケード損傷)。本研究においては、前述のように実際に照射組織を制御する欠陥生成量を見積もるのに必要なはじき出し損傷効率ηついて、低温でのイオン照射と陽電子ビーム測定、および電気抵抗法を通じて実験的に測定・評価を行った。低温でのイオン照射と、その場で実施可能な陽電子ビーム測定によって、照射欠陥生成過程における基礎パラメータであるはじき出し損傷効率を実験的に評価する画期的な手法を開発した。その結果、はじき出し損傷効率は1MeVプロトンで0.3、2.8MeV炭素イオンで0.2と前年度までに評価された。 今年度は炭素イオン(2.8MeV)及びプロトン(1MeV)を用いて純鉄の等時焼鈍による電気抵抗変化のアレニウススペクトルを導出した。さらにプロトン(1MeV)照射を用いて、極低温照射下での欠陥生成効率に溶質元素が与える影響を調査した。欠陥生成効率は純鉄で0.3~0.4、鉄基合金で0.5~0.7程度の値を示した。この結果は、EAMポテンシャルを用いたカスケード損傷シミュレーションの結果(0.2~0.5)と比べ概ね近い値を示している。格子間原子の移動に関して、電気抵抗回復ステージの分析により電子線照射に比べてイオン照射では格子間原子の自由な移動に由来するステージIEの寄与が小さいことが明らかになった。
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