Fe-25Ni-15Crオーステナイト合金について、923Kでα線照射してヘリウムを注入した後に同温度でクリープ変形した材料のヘリウム気泡組織を調べた。粒内に存在する拡張格子欠陥は例外なくヘリウム気泡の優先生成場所となっており、中でも析出物界面は最も有力な気泡捕獲場所として機能していた。このため、粒内の析出物密度と気泡数密度の間には正の相関が認められた。しかしながら、数種類の合金を使用することによって粒内析出物密度を約3桁に渡って変えても、コンピュータ数値計算で求めた粒内ヘリウムの原子密度は約2倍弱しか増加していなかった。このことは、粒内捕獲によってヘリウムの粒界への蓄積を抑制すべく、粒内析出物の高密度分散を計っても、その効果は限定的なものであることを示唆している。一方、同様の数値計算で粒界に存在するヘリウム原子の密度を求めて、粒内に存在するヘリウム原子についての結果と併せて評価してみると、多くの材料で粒内におけるヘリウム原子の存在率が90%を超えていることが分かった。このような材料でも実際にヘリウム脆化が起こっていることから、ヘリウムの粒内保持だけで十分な脆化抑制は困難であり、粒界における気泡の微細分散を実現することによって、不安定成長を起こして破壊を誘発する臨界サイズ以上の気泡の出現を阻止することが重要であると考えられる。 低放射化フェライト鋼に関しては、代表的鋼種であるF82H-IEA材を用いて873Kで同様の実験を実施した。未だ定性観察の段階ではあるが、粒界気泡サイズは臨界サイズ以下であると思われ、このことが同鋼で粒界破壊が誘発されなかった原因であると推察される。
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