前年度に引き続き、Fe-Ni-Crオーステナイト合金に923Kでα線照射を行ってヘリウムを注入し、同温度で定応力を付加した状態でのヘリウム気泡組織を調べ、より長時間側のデータを取得した。昨年度の結果と同じく、ヘリウム気泡の多くは拡張格子欠陥、とりわけ析出物上に存在していた。粒内では、気泡平均サイズは応力下での保持時間が長くなるに連れて大きくなっていたが、数密度については顕著な依存性は認められなかった。粒内気泡のサイズ分布についてはピークが一つの場合と二つの場合が観察された。ピークが二つになるのは粗大な析出物(M_<23>C_6)が低密度で分散しているときあった。M_<23>C_6はマトリックスとの整合性が低く、ヘリウム捕獲能力が高いことが影響しているものと思われる。一方、粒界に関しては、粒界気泡の平均サイズと数密度は粒内と同じく、前者は応力下の保持時間とともに大きくなったが、後者は余り影響を受けなかった。ピークが二つの気泡サイズ分布は粒界においても観察された。このような曲線は粒界の析出密度が小さいときに見られた。ヘリウム脆化抑制には不安定成長を起こす臨界サイズ以上のヘリウム気泡の形成を防ぐことが必要であるので、往々にして大きな気泡を誘発する恐れのある複数ピーク分布は粒界の析出物密度を上げる等の手段によって防止することが望まれる。 代表的低放射化フェライト鋼であるF82H-IEA材についても823Kにおいて同様の実験を続行した。この材料は組織が複雑であり、ヘリウム気泡の存在場所を特定するのが困難であるが、かなりのものはオーステナイト合金と同様に拡張格子欠陥上に存在すると思われる。気泡サイズについては、実験温度が低いせいもあるが、オーステナイト合金より小さかった。特に粒界気泡に関しては、不安定成長を起こす臨界サイズ以上の気泡は観察されておらず、同鋼がヘリウム脆化を受けないことと整合している。
|