カルシニューリンは、カルシウム情報伝達系で重要な働きをするタンパク質脱リン酸化酵素で、カルシニューリン依存的な転写を介して、記憶、心臓の形成、細胞分裂、神経変性疾患、免疫応答等の生命現象を制御している。これまでカルシニューリンの活性は、フィードバックインヒビターにより阻害されると単純に考えられていた。私たちは酵母を用いた研究で、カルシニューリンの活性は、フィードバックインヒビターRcn1の合成、安定化、およびSCFユビキチンリガーゼによる分解の3つにより制御されることを見出した。そこで同様な制御がヒトでも当てはまるか検討した。フィードバックインヒビターRcn1のヒトホモログはDSCR1と呼ばれており、ダウン症の患者で高発現化しており、かつ、その高発現がダウン症の患者に見られる神経疾患の原因であることがわかっている。まず、DSCR1がカルシウムシグナルを誘導する系の一つである酸化ストレスに依存してユビキチン化されることを見出した。このユビキチン化はSCF^<beta-TrCP>に依存することを、RNAiによるbeta-TrCPの阻害実験、DSCR1とbeta-TrCPの結合実験、in vitroでのユビキチン化の再構成実験により明らかにした。この分解がカルシニューリンの活性化に重要であるかは今後の課題である。またDSCR1とカルシニューリンの結合に必なドメインを解析した。これらの研究結果は、DSCR1を標的とした薬剤開発の基礎データとして重要である。
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