22年度(21年度の繰越予算)による調査では、新たにニレイガフシアブラムシを調査対象に加え、クローン内およびクローン間で、性比がどのように変動するかを解析した。また、前年度に引き続き、各クローンが示す性表現を明らかにする目的で、ユキムシProciphilus oriensのクローン飼育および性比の定量化を行った。これによって、通算で11のユキムシクローンを飼育・調査対象にすることができた。この実験に加え、1980年代より継続してきたユキムシの野外集団の性比変動調査を分析し、飼育実験の結果と合わせて総合的に考察を行った。 ニレイガフシアブラムシでは、産性虫あたりの性比がどのクローンでも4頭と一定しており、オス数に関しては変動が見られなかった。一方、卵生メス数はゴールサイズとともに増加し、ゴールが得る栄養量に依存してメス数が増加することが明らかとなった。本種においては、性比の遺伝的多型については確認できず、どのクローンも進化的に安定な戦略としての性比形質を維持していると判断できた。一方、ユキムシについては、クローンごとに、平均卵生メス数が変動するだけでなく、平均オス数が異なっており、性比を制御する対立遺伝子に多型状態が見られる可能性が明らかとなった。性比の遺伝的基盤に、遺伝的多型が見出されることは極めて稀である。こうした特異な遺伝的基盤によって、ユキムシでは、大きな性比の年次変動が生じている可能性が示された。ユキムシにおいては、進化的安定性比の状態を祖先状態とし、ある時点でのメス産出型の出現に伴って、性比のカオス的な年次変動が発生したと判断した。
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