本年度は岩礁潮間帯の固着生物のメタ群集における出現頻度分布のパターンとその形成機構を明らかにするために、北海道東部の夏季の中潮帯を対象に、全出現種、常在種(通年出現する種あるいは夏季に出現のピークをもつ種で、かつ中潮帯が分布のモードとなるもの)、および遇来種(常在種の条件を満たさない種)について、時間的な出現頻度分布(各岩礁単位で8年間での出現年数)と空間的な出現分布(各年で25岩礁(=5海岸×5岩礁)のうちの出現した岩礁の数)を求め、それぞれを比較した。 その結果、全出現種40種のうち常在種が7種で、うち1種は最近に定着したと推察される外来種であった。一方、遇来種は32種で、その大半は中潮帯以深に分布の中心を持つ種であった。全種の空間的な出現頻度分布と時間的な出現頻度分布はともにコア・サテライト型となった。いずれの頻度分布においても出現頻度の低いほうのモードは遇来種によって占められていた。この結果は「常在種-遇来種仮説」と一致する。 常在種の空間的な出現頻度分布は分離した二峰型となり、それぞれの山に重複した種は外来種1種だけであった。帰化種はサテライト種からコア種への移行を示す明白な兆候を示した。常在種の3グループである空間的コア種、空間的サテライト種、および帰化種を比較すると、空間的コア種は時間的にもコア種、帰化種は時間的なサテライト種、空間的サテライト種は両者の中間となった。 以上から、岩礁潮間帯の固着生物のメタ群集は少数の常在種と多くの遇来種によって構成され、後者は主にマスエフェクトを通して前者と共存していると推察された。また、常在種間の共存には、等質化効果と安定化効果の両方が作用していると推察された。そして両効果の相対的重要性を明らかにすることが今後の課題としてあらためて浮かび上がった。
|