1. 研究計画の概要 共存機構と群集動態との関係を明らかにすることは群集生態学の中心課題のひとつである。本申請研究は、多種共存に必須な安定化メカニズムと等質化メカニズムの相対的重要性を野外群集で評価するための新しい方法を開発することにあったが、昨年度までの解析により、研究対象とする岩礁潮間帯の固着生物群集は、その場所の潮位が好適な潮位域とは異なる「偶来種」とそれ以外の「コア種」の二群からなることが判明した(後述)。このことは、岩礁潮間帯の固着生物群集における共存機構と群集動態の関係は、計画当初に想定したような比較的単純なアプローチでは明らかにできないことを意味する。そこで、今年度は種数の少ない「コア種群」を対象に、個体群動態と種間相互作用についての研究を進めることにした。 2. 研究の内容 北海道東部の25の岩礁で行った10年間の調査から得られたデータを用いた前年度の解析により、岩礁潮間帯中部の固着生物群集は、おもに潮位に沿ったニッチの違いに対応したコア種と偶来種から構成され、両種群間では数と分布の時空間動態のパターンとそのプロセスが大きく異なることを示唆された。その中で、コア種群は偶来種群からは強い負の影響を受けていないことが分かった。そこで、本年度は、コア種中最も優占度の高いキタイワフジツボとコア種内の唯一の外来種であるキタアメリカフジツボを対象に個体群動態を解析した。キタイワフジツボでは、生息潮位の中心部ほど、種内の密度効果が強いこと、個体群動態の安定性も高く、確率的変動性は低いことが明らかになった。また、キタアメリカフジツボは、過去5年間で分布域を東方に年当たり約20kmの速度で拡大し、その個体群の確立の成否に、キタイワフジツボを含む他のコア種からはほとんどネガティブな影響を受けていないことなどが明らかになった。
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