湖の食物網は、沖帯では植物プランクトン(懸濁有機物)が基点となる浮遊系の食物連鎖が卓越するが、沿岸帯では浮遊系食物連鎖と大型植物や底生微細藻類が基点となる底生系の食物連鎖が混合して存在する。しかし、沿岸帯の浮遊系と底生系食物連鎖の関係や、高次の消費者への寄与について明らかにはした研究はほとんどない。本研究の目的は、ラムサール条約の登録湿地である伊豆沼を対象として、そこに生息する生物や餌起源物質について、天然のトレーサとなる炭素・窒素同位体比を網羅的に測定することによって、その食物網の全容をとらえることにある。伊豆沼は、水深が浅く、湖面全体に水生植物が粗又は密に繁茂していることから、沿岸食物網のモデル的調査地となる。また従来、湖において、生産者から魚類などの高次消費者までをも含めた食物網全体を調べた研究は少ない。その理由の1つは、魚類など高次の消費者の採集が難しいことにあったが、伊豆沼では、オオクチバスの除去事業がなされ、その過程で多くの魚種のサンプルを得ることができる。本年度は食物網の基点となる生産者と低次消費者の食物関係について主に解析した。その結果、伊豆沼は富栄養で透明度が低いため、生産者として、底生藻類の寄与は小さく、植物プランクトンと水草に付着する藻類が主な生産者となることが分かった。また、水草は直接動物に食べられることはほとんどない。低次捕食者として、動物プランクトン(ミジンコ類やケンミジンコ類)は、POM中から植物プランクトンを選択的に同化していることが推定された。多くの大型底生動物(イトミミズ類やユスリカ類幼虫)は水中から堆積したPOMを主に同化していることが分かったが、モンユスリカ属の1種とオオユスリカは、炭素同位体比が堆積物やPOCよりも極端に低い者がみられ、メタン食物連鎖の寄与があることが推察された。
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