近年、湖の食物網については、天然のトレーサとなる炭素・窒素安定同位体比を用いた解析によって、植物プランクトン(懸濁有機物)が基点となる浮遊系の食物連鎖と底生微細藻類が基点となる底生(沿岸)系の食物連鎖が存在することが明らかとなりつつあるが、1つの湖を対象として浮遊系と底生系食物連鎖の分離の程度、高次の消費者への寄与を詳しく調べた研究はまだほとんどない。本研究の目的はラムサール条約の登録湿地である伊豆沼を対象として、そこに生息する生物や餌起源物質について、炭素・窒素同位体比を網羅的に測定することによって、その食物網の全容をとらえ、浮遊系と底生系食物連鎖の混じり合いや高次消費者への寄与を明示することにある。現在、伊豆沼ではオオクチバスの除去事業が展開されており、多くの魚種のサンプルを得ることができるので、高次消費者である魚類までも含めた食物網の総合的な解析が可能となる。本年度は特に浮遊系食物連鎖の基盤となる一次消費者動物プランクトンの餌資源について、脂肪酸分析をも手法に加え、詳細に解析した。伊豆沼の動物プランクトンの炭素同位体比は餌として摂食している懸濁有機物よりも低い炭素同位体比を示すが、その理由について解析した結果、その理由として、動物プランクトンが懸濁有機物の中から炭素同位体比の低い植物プランクトンを選択的に同化することのほかに、メタン(メタン酸化細菌)由来の有機物を同化していることが示唆された。また、底生動物の内、カラスガイは伊豆沼では大型の個体しか採集されず、餌となる懸濁有機物からは予想できないほど高い窒素同位体比をもつ。そこで、カラスガイは成長に伴い重い窒素を蓄積するという仮説をたて、カラスガイを伊豆沼で飼育し、窒素同位体比の変化を調べた。中型まで育てた段階ではあるが、成長に伴い窒素同位体比が高くなる結果が得られている。
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